中小企業診断士 過去問
令和6年度(2024年)
問157 (経営法務 問21)

このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。

問題

中小企業診断士試験 令和6年度(2024年) 問157(経営法務 問21) (訂正依頼・報告はこちら)

売買契約における手付に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • 手付が違約手付の趣旨で交付された場合、証約手付の性質はない。
  • 手付が解約手付の効力を有する場合、売主は、買主に対し、口頭により手付の倍額を償還する旨を告げその受領を催告することにより、売買契約を解除することができる。
  • 手付が解約手付の効力を有する場合、買主はその手付を放棄し、契約の解除をすることができるが、売主が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
  • 手付が損害賠償額の予定としての効力を有する場合、解約手付の効力を有することはない。

次の問題へ

正解!素晴らしいです

残念...

この過去問の解説 (2件)

01

手付に関する問題です。手付については馴染みがない方も多いと思われるため、難易度は高めです。

 

手付とは、契約を締結する際に交付する金銭などを指します。民法上、手付は原則として解約手付であるとしており、交付される手付の大半は解約手付であるとされています。

 

次に、各選択肢で問われている手付の種類について解説します。

・違約手付:債務不履行が発生した場合には手付が没収される(または手付の倍額を償還する=いわゆる「倍返し」)手付のことです。なお、手付倍返しにより契約解除するためには、手付倍額を実際に提供することが必要です。

証約手付:契約が成立したことを証明するために、交付される手付のことです。

・解約手付:住宅の売買契約を締結する際に、買主から売主に支払う手付金の一種です。

 

解約手付には、次のような特徴があります。

履行着手前であれば解約できるが、履行着手後は解約できない

買主は手付金を放棄し、売主は手付金の倍額を返還することで、承諾なく、損害賠償の発生なく、契約を解除することができる

売主が宅地建物取引業者である場合、手付金を契約代金の20%を超える額に設定することはできない

選択肢1. 手付が違約手付の趣旨で交付された場合、証約手付の性質はない。

手付が違約手付の趣旨で交付された場合でも、契約は成立しているため証約手付としての性質があります

 

しがたって、不適切な選択肢です。

選択肢2. 手付が解約手付の効力を有する場合、売主は、買主に対し、口頭により手付の倍額を償還する旨を告げその受領を催告することにより、売買契約を解除することができる。

冒頭の解説より、手付が解約手付の効力を有する場合、売主は、買主に対し口頭により手付の倍額を償還する旨を告げた上で手付倍額を実際に提供することにより売買契約を解除することができます。

 

実際に売買契約を解除する場合、買主は手付金を放棄します。対して、売主が口頭により手付の倍額を償還することを告げるだけでは買主が放棄した利益とのバランスが取れません。(買主に手付の倍額を受領するように催告したとしても、まだ買主は受領していません)

 

以上から、口頭で告げ(、その受領を催告す)るだけでは足りないため不適切な選択肢です。

選択肢3. 手付が解約手付の効力を有する場合、買主はその手付を放棄し、契約の解除をすることができるが、売主が契約の履行に着手した後は、この限りでない。

冒頭の解説より、手付が解約手付の効力を有する場合、買主はその手付を放棄し契約の解除をすることができますが、売主が契約の履行に着手した後はこの限りでないことは、手付に関する記述として最も適切であり正解の選択肢となります。

選択肢4. 手付が損害賠償額の予定としての効力を有する場合、解約手付の効力を有することはない。

解約手付では、履行着手前であれば損害賠償を発生させることなく契約を解除することができるため、手付が損害賠償額の予定としての効力を有する場合でも解約手付の効力を有します

 

手付が損害賠償額を予定していることを理由に解約手付の効力が制限されるとすれば、契約者の一方にとって著しく不利益となるおそれがあります。他方、債務不履行の発生を考慮すると違約手付の性質を含むことは当然であり、解約手付と違約手付の両方の性質を含んでいると判断できるため不適切な選択肢です。

参考になった数4

02

本問は売買契約における手付についての知識を問う問題です。手付とは、契約の成立時に当事者の一方が相手方に交付する金銭や物品を指します。民法第557条に規定されており、その性質や効力によって、証約手付・解約手付・違約手付などに分類されます。実務上も重要な制度であるため、その基本的理解が必要です。

選択肢1. 手付が違約手付の趣旨で交付された場合、証約手付の性質はない。

この選択肢は誤りです。手付が違約手付の趣旨で交付された場合でも、証約手付の性質は存在します。

手付には複数の性質が併存することがあります。違約手付とは、債務不履行があった場合に、債務不履行者が手付金を没収されたり、手付の倍額を償還したりすることで損害賠償責任を果たす機能を持つものです。一方、証約手付とは、契約が成立したことを証明する機能を持つものです。

違約手付が交付されるということは、契約が成立していることを前提としているため、証約手付としての性質も当然に備えています。つまり、手付が違約手付の性質を持つことと、証約手付の性質を持つことは矛盾せず、むしろ通常は併存しています。

選択肢2. 手付が解約手付の効力を有する場合、売主は、買主に対し、口頭により手付の倍額を償還する旨を告げその受領を催告することにより、売買契約を解除することができる。

この選択肢は誤りです。手付が解約手付の効力を有する場合、売主が契約を解除するためには、口頭による意思表示だけでなく、実際に手付の倍額を提供することが必要です。

民法第557条第1項では、「買主がその手付を放棄し、売主がその倍額を償還して、契約の解除をすることができる」と規定されています。ここでいう「償還」とは、単に口頭で償還する意思を表示するだけでは足りず、実際に手付の倍額を提供することが必要です。つまり、口頭のみで契約解除はできません。

実際の取引においても、買主は手付金を既に支払っているのに対し、売主が単に口頭で「倍額を払います」と言うだけでは公平性を欠くため、実際の提供が必要とされています。

選択肢3. 手付が解約手付の効力を有する場合、買主はその手付を放棄し、契約の解除をすることができるが、売主が契約の履行に着手した後は、この限りでない。

この選択肢は正しいです。民法第557条第1項では、「買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる」と規定されています。また、同条第2項では、「第1項の規定は、その当事者の一方が契約の履行に着手した後は、適用しない」と定められています。

つまり、手付が解約手付の効力を有する場合、買主はその手付を放棄して契約を解除することができますが、売主が契約の履行に着手した後は、もはや解約手付としての効力は失われ、買主は手付の放棄による契約解除ができなくなります。

この規定は、契約の安定性を確保するためのものであり、履行に着手した後に相手方の一方的な意思で契約を解除されることによる不利益から当事者を保護する役割を果たしています。

選択肢4. 手付が損害賠償額の予定としての効力を有する場合、解約手付の効力を有することはない。

この選択肢は誤りです。手付が損害賠償額の予定としての効力(違約手付の性質)を有する場合でも、解約手付の効力を併せ持つことは可能です。

手付は、その性質により証約手付・解約手付・違約手付などに分類されますが、一つの手付が複数の性質を持つことは一般的です。特に民法第557条では、手付は原則として解約手付としての性質を持つと推定されています。

したがって、手付が損害賠償額の予定としての効力を有する場合でも、特約でそれが解約手付としての効力を持たないと明示されていない限り、原則として解約手付の効力も有します。

まとめ

本問の正解は選択肢3です。

手付には主に以下の3つの機能があります:

証約手付:契約の成立を証明する機能

解約手付:当事者が一定の条件下で契約を解除できる機能

違約手付:債務不履行があった場合の損害賠償額を予定する機能

これらの機能は互いに排他的なものではなく、一つの手付が複数の機能を併せ持つことが一般的です。特に民法上、手付は解約手付と推定されます(民法第557条)。

また、解約手付による契約解除は、当事者の一方が契約の履行に着手した後はできなくなります。さらに、売主が契約を解除する場合は、単に口頭で意思表示するだけでなく、実際に手付の倍額を提供する必要があります。

手付制度は、特に不動産取引など高額な取引において重要な役割を果たしており、ビジネスの現場でも正確な理解が求められる制度です。

参考になった数0