中小企業診断士 過去問
令和6年度(2024年)
問143 (経営法務 問7(2))

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問題

中小企業診断士試験 令和6年度(2024年) 問143(経営法務 問7(2)) (訂正依頼・報告はこちら)

以下の会話は、X株式会社(以下「X社」という。)の株主兼代表取締役である甲氏と、中小企業診断士であるあなたとの間で行われたものである。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。
なお、X社は種類株式発行会社ではなく、定款に特段の定めはない。また、X社とY株式会社(以下「Y社」という。)との間に資本関係はない。

甲氏 :「私も今年で70歳を超え、X社の経営をしていくのが大変になってきたので、X社の経営を他の人に譲ろうと思っています。知人に聞いたところ、Y社が、X社の事業に興味を持っているということで、X社の株式を買ってもよいということでした。X社の株式をY社に売却するに当たって、どのようなことを準備しておくとよいのでしょうか。」
あなた:「他人の名義を用いて株式の引き受けや取得をしていた場合には、その名義株主と実質的な株主との間で、株主がどちらであるかということが争いになる場合があります。このため、もし、そのような事情がある場合には、実質的な株主と名義株主との間で合意書を締結し、株主がどちらであるのかを確認しておくことが必要です。」
甲氏 :「分かりました。X社の株式は、私の他に株主名簿に記載された人が出資をして株式を引き受けていますので、名義株主はいなかったと思いますが、改めて確認します。ところで、X社の株式は、私が大半を持っていますが、それ以外にも株主がいます。Y社に株式を譲渡するにあたって、私以外の株主の大部分はY社に株式を譲渡することに同意してもらえますが、一部の株主はY社への株式譲渡に応じない可能性があります。Y社にX社の株式の全部を譲渡するために何か方法はありますか。」
あなた:「甲氏は、X社の株式をどれくらい持っているのでしょうか。」
甲氏 :「私は、X社の( A )の( B )以上を持っています。」
あなた:「そうであれば、甲氏は、X社の特別支配株主になりますので、X社の株主の全員に対し、その有するX社の株式の全部を自分に売り渡すことを請求することができ、所定の手続をとることにより、甲氏が、X社の株式の全部を取得することができます。そのうえで、Y社に株式を譲渡することが考えられます。」
甲氏 :「分かりました。ところで、X社の株式をY社に譲渡する以外の方法で、Y社にX社の事業を引き継ぐ方法はありますか。」
あなた:「例えば、X社の事業の全部をY社に事業譲渡する方法や、Y社がX社を吸収合併する方法があります。」
甲氏 :「事業の全部をY社に事業譲渡する場合、X社では、どのような手続きが必要となるのでしょうか。」
あなた:「その場合は、原則として、X社で株主総会の特別決議が必要になります。」
甲氏 :「知人からは、会社法では、債権者異議手続や反対する株主から株式を買い取る手続きが定められていると聞いたのですが、この点はどうでしょうか。」
あなた:「ご質問の事業を全部譲渡する場合、X社において、( C )。X社の反対株主には、( D )。」
甲氏 :「ありがとうございます。進展があったらまた相談します。」
あなた:「必要であれば、事業承継に詳しい弁護士を紹介しますので、いつでも相談してください。」


会話の中の空欄CとDに入る語句の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
  • C:債権者異議手続が必要となります  D:いかなる場合でも株式買取請求権は認められていません
  • C:債権者異議手続が必要となります  D:株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません
  • C:債権者異議手続は不要です  D:いかなる場合でも株式買取請求権は認められていません
  • C:債権者異議手続は不要です  D:株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません

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この過去問の解説 (2件)

01

債権者異議手続(空欄C)と株式買取請求権(空欄D)に関する問題です。

以下に、それぞれの用語の確認を行ないます。

 

・債権者異議手続

会社の経営に重大な影響を及ぼすような意思決定が行なわれる際、債権者に不利益が生じる可能性がある場合に、債権者の利益を保護するために債権者が異議を述べる機会を与える手続きをいいます。

 

会社の経営に重大な影響を及ぼすような意思決定とは、具体的には合併、株式交換、株式移転、資本金を減少させるといったことが挙げられます。

 

なお、本問空欄Cで問われている事業譲渡に関しては、債権者異議手続は規定されていません。

 

・株式買取請求権

株主が会社に対して、自身が保有する株式を買い取ってもらうように請求する権利をいいます。一言で言うと「御社の株主を辞めます(だから、株式を買い取ってくださいね)」権利です。


株式買取請求権を行使できる一例としては、以下のようなものがあります。
会社が事業譲渡や合併、株式交換などを行う場合
種類株主に損害を及ぼすおそれのある行為を行う場合→本問では与件文に「X社は種類株式発行会社ではない」とあります
株主総会で議案に反対した株主が株式を保有している場合

 

以上から、本問空欄Dで問われている反対株主には株式買取請求権が認められています(いかなる場合でも株式買取請求権は認められていないわけではありません)。

選択肢1. C:債権者異議手続が必要となります  D:いかなる場合でも株式買取請求権は認められていません

冒頭の解説より「C:債権者異議手続は不要です、D:株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません」の組み合わせであるため、不適切な選択肢です。

選択肢2. C:債権者異議手続が必要となります  D:株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません

冒頭の解説より「C:債権者異議手続は不要です、D:株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません」の組み合わせであるため、不適切な選択肢です。

選択肢3. C:債権者異議手続は不要です  D:いかなる場合でも株式買取請求権は認められていません

冒頭の解説より「C:債権者異議手続は不要です、D:株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません」の組み合わせであるため、不適切な選択肢です。

選択肢4. C:債権者異議手続は不要です  D:株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません

冒頭の解説より「C:債権者異議手続は不要です、D:株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません」の組み合わせであるため、正解の選択肢となります。

まとめ

【補足】

 

空欄Dについては、「いかなる場合でも株式買取請求権は認められていない」わけではないため、試験対策上は消去法で選択可能です。

 

何故、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には株式買取請求権は発生しないのかについては、株式会社の解散により清算手続が行なわれ、残余財産の分配により投下資本を回収することができるためです。

 

ただし、ここまで詳細に暗記している必要はなく、試験対策上は消去法で正答できるため冒頭の解説では述べていません。(解散決議→清算手続→投下資本の回収というロジックでご理解いただけると思います)

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02

事業譲渡における債権者異議手続と株式買取請求権に関する問題です。会話の中で、X社の事業全部をY社に譲渡する場合の法的手続きについて質問がなされています。事業譲渡とは、会社の事業に関する権利義務を他の会社に移転する行為で、会社法上の組織再編の一つです。この問題では、事業譲渡を行う際に必要となる債権者保護手続(債権者異議手続)と、株主保護手続(株式買取請求権)についての理解が問われています。事業再編の法的側面を理解する上で重要な論点です。

選択肢1. C:債権者異議手続が必要となります  D:いかなる場合でも株式買取請求権は認められていません

この選択肢は誤りです。C「債権者異議手続が必要となります」とD「いかなる場合でも株式買取請求権は認められていません」の両方が間違っています。会社法上、事業譲渡の場合には債権者異議手続は法定されていません。債権者異議手続が必要となるのは、合併、会社分割、株式交換・株式移転、資本金の額の減少などの場合です。また、事業譲渡に反対する株主には原則として株式買取請求権が認められているため、「いかなる場合でも株式買取請求権は認められていません」という記述は誤りです。

選択肢2. C:債権者異議手続が必要となります  D:株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません

この選択肢は誤りです。C「債権者異議手続が必要となります」という記述は誤りです。会社法上、事業譲渡の場合には債権者異議手続は法定されていません。債権者異議手続が必要となるのは、合併、会社分割、株式交換・株式移転、資本金の額の減少などの場合です。一方、D「株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません」という記述は正しいです。しかし、選択肢としては両方が正しくないといけないため、この選択肢全体としては誤りとなります。

選択肢3. C:債権者異議手続は不要です  D:いかなる場合でも株式買取請求権は認められていません

この選択肢は誤りです。C「債権者異議手続は不要です」という記述は正しいですが、D「いかなる場合でも株式買取請求権は認められていません」という記述は誤りです。事業譲渡に反対する株主には、会社法第469条第1項に基づき、原則として株式買取請求権が認められています。株式買取請求権は株主保護のための重要な制度であり、事業譲渡に限らず、合併や会社分割など会社の基礎的変更を伴う組織再編において広く認められています。ただし、例外的に認められない場合もあり、それが次の選択肢で述べられています。

選択肢4. C:債権者異議手続は不要です  D:株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません

この選択肢は正しいです。C「債権者異議手続は不要です」とD「株式買取請求権が認められていますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には、株式買取請求権は発生しません」の両方が正確です。会社法上、事業譲渡の場合には債権者異議手続は規定されておらず不要です。また、事業譲渡に反対する株主には原則として株式買取請求権が認められていますが、会社法第469条第5項により、事業譲渡と同時に解散の決議をする場合には例外的に株式買取請求権は発生しません。これは、解散により清算手続が行われ、最終的に残余財産の分配を通じて株主が投下資本を回収できるためです。

まとめ

本問の正解は選択肢4です。事業譲渡において、債権者異議手続は法定されておらず不要であり、反対株主には原則として株式買取請求権が認められますが、事業譲渡の承認決議と同時に解散の決議をする場合には例外的に株式買取請求権は発生しないという組み合わせが正しいです。会社法における組織再編には様々な手続きが定められていますが、各再編行為によって必要な手続きは異なります。特に、債権者保護手続と株主保護手続の有無や内容は、再編行為の性質や影響の大きさによって異なるため、それぞれの特徴を正確に理解する必要があります。事業譲渡は資産の移転に近い性質を持つため、合併や会社分割と比べて債権者保護の必要性が低いと考えられています。

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